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治験入院終了~ロサンゼルス~

  • ナシオ
  • 2016年5月28日
  • 読了時間: 4分

入院してから一週間ぶり、退院して外の空気に触れて思わずにやけてしまった。

こんなにも陽の光が気持ちの良いものなのか、と。

入院、と言っても体のどこかが悪いわけではなく治験の為。

初日は事前検診と同じような事をやって終わり、半日は暇だった。

二日目、幾らか分厚いシールを体にべたべた貼られた後に携帯式の心電図測定器を取り付けられた。取り付けてから49時間の間そいつと動きを共にしなければならないと言う。

ズボンのポケットにちょうど収まるくらいの大きさだったので、そこまで気になるものではなかった。

その晩、「明日は少し忙しいわね。」と、スケジュール表を見た看護婦が言った。

忙しいとはどういう事だろうか?と疑問に思ったが、まだ手を付けてなかった永遠のゼロを読むことにした。

そして三日目。忙しいと言う理由が良く分かった。

早朝6時頃、部屋のドアが開き看護師が心なしか速足で部屋に入って来た。

何かの作戦が開始されたかのように、彼は一言もしゃべらずてきぱきと何かを準備し始めた。

眠気まなこをこすっていると、左腕を出すように言われその通りにする。採血用の針をブスッと刺され、針の辺りを透明のテープで固定され試験管に血を抜かれた。

しばらくの間採血が多いので針とチューブを差したままにしておく為のものだった。

病人でもないのに病人になった気がした。

看護師は入れ替わり心電図を図り、血圧を測り体温を測っていく。

早朝から慌ただしく色々な事が進んでいく。

朝8時すぎ、二人の看護婦がやって来た。小さな小瓶と小さなクリスタルガイザーのボトルを持って。投薬時間は朝8時30分。その少し前にやって来た彼女たちは、ミスの無いよう新薬の入ったボトルの表記や治験対象者、僕の番号やらなにかをを読み上げ確認している。

色々な事を声にだし確認しながらも、「5分前。」、「3分前。」などと言っていて、まるでスペースシャトルの打ち上げ前みたいな緊迫したカウントダウンが始まっていた。

8錠のカプセルを飲むが、何回に分けて飲見たいかを聞かれた。何度も飲み込むのは骨が折れると思ったが、一気には飲める気もしなかったので4錠づつ2回に分けてもらう事にした。

飲み込んだら口を開け、両手を開き、薬をちゃんと飲んだかを確認する事になっている旨を聞かされる。

カウントダウンが近づいてきた。

「10秒前...5、4、3、2、投薬。」

カプセルを手渡され水で流し込む。それを2回。

ほんの少しだけ残した水も全部飲むように言われ、ズズーと音を出しながら飲んだ。

ヘラで舌の下を確認され、手を広げて薬を飲み込んだところを確認してもらった。

なんだかここで一気に不安になってしまった。実験台になるのは分かっていたけれど、カウントダウンを聞いていたら少しばかり恐怖を覚えてしまったのだ。

それで終わりではない。

投薬から30分後、1時間後、1時間半後、2時間後...と、血圧・脈拍・体温測定などを細かいスケジュールで行っていく。

心電図測定の前の10分間は枕を使わずベッドで横になって居る事になっていて、ほとんど身動きの取れない状態だった。

数分間動くなと言われ心電図を計ると血圧。寝たままで1回。静かに立ち上がって2分後にもう1回測るのだ。2分待っている間に体温計を口にくわえさせられる。

それが終わると採血。

血を見るのは苦手だったけれど、早く終わってくれないものかと思い試験管に溜まっていく血液に目をやる。

このサイクルを何度も何度もこなす。

夕方頃にはそれらが行われる間隔が空いてきたので少しほっとできた。

美味くもない飯を食って横になり、検査の時間を待つ。

その日の最後の採血は深夜2時だった。

4日目以降は投薬した日の忙しさが嘘のように暇だった。

心電図の機械も取り、採血用の針とチューブも取る事が出来た時はどことなくうれしかった。

本を読んだりiphoneをいじったり、眠くないのに寝ようと試みたりしながら日々の時間をやり過ごして退院の日を迎えた。

退院の日の朝、血圧・脈拍・体温・尿・血液・心電図と一通りの検査を終えるとコーディネーターが一時金として小切手を持ってきてくれた。

人生で始めてもらう小切手だったが、これがお金になるのか?とちょっと味気ない気もした。けれども1500ドルを超える金額が書き込まれた小切手を見ると心が明るくなってきた。

左右の手首につけられた、被験者識別用のバーコードの書かれたリストバンドを切ってもらい玄関までスタッフに送ってもらった。

リストバンドが手錠ならば刑務所の様なものか、なんて思いながら1週間前に乗って来たエレベータに乗り込む。

施設の外に出るとにやり、とてしまった。

まだ通院が3回残っているけれど、自由である事が嬉しくて外に出てしばらくの間僕の顔はにやけっぱなしだった。さぁ、久しぶりのコーヒーを飲みに行こう。

 
 
 

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