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夜の恐怖とjazz cafe ~キューバ放浪記・ハバナ~

  • ナシオ
  • 2018年3月15日
  • 読了時間: 5分

キューバ ハバナ カピトリオ

メキシコやグアテマラ、はたまたロサンゼルスのボイルハイツ辺りで感じた、「夜の街の危なさ」。

ロサンゼルスに居た頃、ある日友人に車を出してもらって遊びに出かけた帰り道、僕は「近所のスーパーで降りるよ、ちょっと買いたい物があるから。」と言ったのだが、夜は危ないから車で移動した方が良いと言われ一緒に買い物した記憶がある。

その時はたった2つの角を歩けば良いだけなのに、と思ったけれども長くその土地に居る事でなんとなくその危なさみたいなものを感じることが出来た。

夜間、何かの罪を犯した犯人を捜しているのか、サーチライトで地上をテラス警察のヘリコプターの姿を何度もみかけたし、テレビでは近所で起きたギャングの銃撃戦に巻き込まれで撃たれてしまった少女のニュースを伝えていたりした。

グアテマラのアンティグアと言う街は比較的治安が良いとされていたけれど、夜になれば開いている商店も数える程しかなく、開いていたとしても店の入り口は頑丈そうな鉄格子で閉じられ、店主に欲しい商品を鉄格子越しに伝えて物を買うのが当たり前だった。

そんな様を見ていると、「夜は危険であるから出歩くべきではない」と言う考えが刷り込まれていたのだけど、キューバに来てからそれが大きく変わった。

人々が夜な夜な音楽と酒を求めて街に繰り出したり、公園で楽しそうにおしゃべりしていたりする姿にどこか安心感を覚えていたのだ。

オールドハバナの街は日が暮れると薄暗いし建物は壊れかけていたりするのだけれど、そこに集う人たちには暗さも影も感じる事は無かった。ほかの国で感じていた夜の怖さと言うものが不思議と感じられないのだ。

「この国は夜を楽しまなくては来た意味がないのでは?」

なんて思うようになって、僕は旅に出てから抱えていた「夜の恐怖」から簡単に解放されてしまった。

夜は安全な宿で買い込んだ酒を飲むと言うスタイルが崩された。

宿で朝食を取った後に街をぶらつき、昼飯を食べて一度宿に帰る。そしてクーラーの効いた部屋で昼寝をして涼しくなってきた夜に街をぶらつくと言う生活パターンに変わって行ったのだ。

多くの観光客がぶらつくオビスポ通りと言う細い通りは生バンドの演奏を危機ながら飯を食ったり酒が飲める店がいくつもあったし、その辺でビールやラムを買う事にも困らなかった。缶ビールを片手にレストランの外でバンドの演奏を眺めるという安上がりな贅沢を僕は楽しんだりしていた。

キューバ ハバナ オビスポ

けれどもせっかく音楽に溢れたこの国でライブハウスに行かない手はないと思い、ある晩ライブハウスに行く事にした。

以前キューバを旅した友人に聞いていた「Jazz Cafe」と言う店へ。

シオマラの家を出て中華街へ少し歩いた所にある公園で客待ちしているタクシーに乗り込んだ。

僕が東洋人だと分かったドライバーは、これは中国製の真新しいタクシーだと言う事を熱っぽく語り始めた。

「新車を買えるなんて随分儲かっているじゃないか!」と言うと、彼はそれまでの熱っぽい語り口が変わった。

話を聞けば、実は車は借り物であって自分の物ではないと言う。オーナーが使っていない時間に借りて、白タク営業していると言う事だったのだ。

車のオーナーは何もしていなくても幾らかの金が入ってくるし、ドライバーは資本をかけずに商売を始めて日銭が稼げる。お互いWin-winの関係だ。

よほどの信頼関係で無ければ成り立たなそうだけれど、みな日銭を稼ぐ事に色々と努力しているもんだと感心した。

脳死状態で会社に言われるがまま労働に時間を費やし、やがて病んでいく人が多い日本の社会と違ってよっぽど健全に「労働」しているようにも思えた。

半面、全くやる気のない店員が堂々と働いているのも面白い国でもある。

コーヒースタンドでコーヒーを頼んだ時の事だ。

僕が日本人だと分かった瞬間、

「1ドル頂戴よ、チーノ(中国人を指す言葉だけど、東洋人をこの言葉で一括りにされている節がある)。」

と、言いながら前の客が飲み終わったカップを洗わず、そのままコーヒーをポットから注いで出して来た事もある。

タクシーのドライバーは資本主義的であって、コーヒースタンドの店員は未だに「どれだけ頑張ってもみな稼ぎは同じ」社会主義を引きずっているのだろうか。

22時の開演の5分前には「Jazz Cafe」に到着していた。

この店の入場料は10CUC、10USドルだから当時のレートで1200円弱だろうか。

面白いのはこの価格分の飲食が出来ると言う事だ。たった1200円弱で、2杯か3杯飲みながら音楽が楽しめるのだ。

店は平日だったせいかさほど混雑しておらず、ステージから離れてはいたもののテーブル席に座る事が出来た。

この日は若手のジャズバンドの演奏だった。彼らが登場すると、観光客なのか大口の客が大きな拍手で彼らを迎えた。

ぶっ壊れそうなオールドハバナの建物に見慣れていると、なんとも贅沢な感じのする内装だった。

僕はビールを頼み、サックス・キーボード・ベース・ドラムの4ピースの演奏に耳を傾けた。

短パンとグアダルーペが描かれたTシャツと言う自分の格好が恥ずかしくなるくらいに洒落たもんだった。

ハバナ ジャズカフェ キューバ

タンクトップと軍パン、坊主頭ばかりでたまに殴り合いの始まるライブハウスしか知らなかった僕からしたら、立ち飲み屋から高級レストランに場所が変わってしまった程の異空間だった。

そう、ジャズをライブハウスで聞くこと自体が初めてだったのである。

1人異空間に放り込まれ、初めての体験をしているとなぜか分からないほどの感動が襲ってきた。

2杯目に頼んだモヒートが効いてきたせいもあるのだろうか、キューバと言う昔から来ることに憧れていた国で、その国のミュージシャンが奏でる音を体感していると言う事がとてつもない贅沢のような気がして涙が出そうになってしまったのだ。

観光客相手に英語も交えてトークをするサックスプレーヤーが言うまま、僕は手拍子を打ったり声を上げたりしてその場を満喫した。

日付が変わり、2ステージのライブが終了し僕は店を出る事にした。

店を出ると客待ちのタクシーの姿が目に入った。

そこは人通りも少なく寂しい感じもしたけれど、海から吹く風が心地よい夜の恐怖を微塵にも感じさせない穏やかな夜があった。

 
 
 

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