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左翼ゲリラ「サパティスタ」の村へ~オベンティック・メキシコ~

  • ナシオ
  • 2016年9月17日
  • 読了時間: 4分

吹く風が冷たくなり遠くの空が暗くなるのを見ると、これから降り始めるであろう雨を思い少し憂鬱になる。

雨季のサン・クリストバル・デ・ラス・カサス。古い石畳の道は水はけが悪く、雨水が川のように流れる道をタクシーが水しぶきを高々と上げて走り抜ける。

水しぶきが歩行者に掛かってもおかまいなしだ。

この数週間、特に観光を楽しむわけでもなく宿の中庭の喫煙スペースで日がな一日の天気を占ったりしている。そんな自分にもサン・クリストバル・デ・ラス・カサスに来たらどうしても見に行きたいと思っていた場所があった。

サン・クリストバル・デ・ラス・カサスから乗り合いタクシーで1時間ほど行った山の中にある「オベンティック」と言う場所だ。

「EZLN(サパティスタ民族解放軍)」の拠点の一つであるオベンティック。EZLNは1994年にNAFTA(北米自由貿易協定)に反対する形で武装蜂起を始めたゲリラ組織だ。

日本の公安調査庁のホームページ上では「国際テロ組織」にカテゴライズされているが、現在は目立った武力闘争を行うことは無く貧民たちの生活水準の向上などを要求した対話をメキシコ政府との間で行っている。

オベンティックはサパティスタの拠点の一つなのだが、その内部を見学することが出来る。 内部ある建物に描かれた壁画が素晴らしいと言う話を旅仲間から聞き、ここだけは行こうと決めてたのだ。

乗り合いタクシーの運転手に「ここがオベンティックだ。」と言われて車を降りると、目の前に鉄柵のゲートがありその横には口元をバンダナで隠したサパティスタが見張りをしている様が見えた。

特に危険な空気感を感じる事もなく、見張りのおばさんに内部を見学したい旨を伝えた。ゲリラとは言えのんびりとした雰囲気だ。

おばさんは二人の男を連れて来た。目出し帽をかぶった男とバンダナで口もとを隠した男。彼らに姓名、見学の目的、職業、所属する組織などを聞かれパスポートを見せる。男たちは僕の情報を書いた紙きれを持って小屋に戻って行った。

すぐに入ることが出来ると思っていたのだが、その後1時間ほど待たされから入場を許された。

見学者には監視役・ガイド役のサパティスタがつく。僕の監視役は目出し帽をかぶった女性だった。目出し帽をかぶった女性と横に並んで歩くだなんてえらくシュールなデートだ。

色々と質問をしても「知らない・分からない。」の言葉が返ってくるだけだったけれど、壁画が見たいと言う僕の希望はばっちり叶えてくれた。

僕の大好きなグアダルーペのマリア様もバンダナで口を隠すサパティスタ仕様に。

トウモロコシになったサパティスタの絵もかわいらしい。

最後にガイド役の女性に「一緒に写真を撮ってもいいか?」と聞くと、彼女は笑いながらも力強く「NO」と断った。

人気の少ないオベンティックは実にのんびりとしていて、覆面を外してリラックスしているサパティスタの姿や至る所に描かれた壁画のポップさは自分が勝手にイメージしていた「武装ゲリラ」の姿とは程遠かった。もう少し彼らについて勉強しておけば良かった気もするが、オベンティックの空気感を味わえただけでも満足だった。

オベンティックからの帰り道、ララインサールという村に寄って帰る事にした。

何かの祭りごとなのか村の教会の前にたむろする民族衣装と派手な帽子を身に着けた先住民族の男たちの姿があった。僕はそれを遠目で見ていたのだが、僕の履いている足袋が珍しいのか彼らは僕を取り囲むように集まって来た。

あんなに人に囲まれたのはインドの何処かの駅前くらいかもしれない。

習慣上先住民族は写真を撮られる事を嫌う事が多いのだが、僕を面白がった男たちは一緒に写真を撮る事を快諾してくれた。

この街に来てから「出掛けた」と言うのはこの一日くらいかもしれない。

雨が降るから宿でのんびりするのだ!と、雨のせいにして宿に腰を据えて日々ぼんやり空を眺めている。

 
 
 

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