インディオの鼻へ~サン・ペドロ・ラ・ラグーナ グアテマラ~
- ナシオ
- 2016年11月8日
- 読了時間: 6分

早朝3時半、僕はインディオの鼻(Nariz de Indio)から朝陽を眺めるツアーに参加する為に早起きをして身支度を整えていた。
一緒に行く隣室の友人がまだ起きてこない事を少し気にかけながら、暗闇に包まれたアティトラン湖の方を見ながら煙草を一服する。
集合時間の4時少し前に友人が部屋から出てきたかと思うと、今回のツアーガイドが部屋の前までやって来た。
30~40分で登る事の出来る山だと聞いていたけれども、ハットをかぶり分厚いジャンパーを着こんだかなり高齢に見えるガイドがやって来たのは意外だった。
時間に余裕がないのか、朝の挨拶を済ませるとすぐに「Vamos!(行こう!)」、とおじいさんガイドに言われ僕たちは彼の後ろに着いて宿を出た。
宿の親父の話だと、山のふもとの村「サンタ・クララ・ラ・ラグーナ(Santa clara la laguna)」までの移動の車代や入山料などが含まれ当日は一切金を払う必要のないツアー代金だと言う事だった。
てっきり宿から出て右に行った比較的広い坂道に専用の送迎バスでもいるのかと思ったら、坂道に出て左に曲がりメルカド(市場)の方へと歩き始めた。
「バスは?」
と、聞くと、強盗が出たりするなど悪い噂を聞くこともあるグアテマラ庶民の足、チキンバスに乗って行くと言う返事が返って来た。
なるほど、そりゃあ旅行会社で聞いた値段よりも安い訳だなと納得して、きつい坂道を上り村の小さなメルカドの裏手にある教会の前まで歩いた。
まだ暗闇に包まれた静かな村の教会の前にはエンジンもまだかけていない、真っ暗な車内のチキンバスが1台待機していた。
ガイドのおじいさんの後についてバスに乗り込み出発するのを待つ。
4時を少し過ぎた頃、バスはエンジンをかけ走り始めた。僕たち3人の他にはほとんど客もいない車内は真っ暗で、一人で乗っていたら少しビビってしまうような雰囲気だった。
坂道や悪路の多いこの辺りをバスはゆっくりと走り、2つの小さな集落を越えて5時頃にサンタ・クララ・ラ・ラグーナに到着した。
ガイドの後ろについて歩いて行く。小さな村の細い道を少し歩いたかと思うと細い路地に入り、電燈も無い木々に囲まれた暗闇の道に入り始めた。年老いているとは言えガイドが居る安心感、ただ彼の後を着いて行けば良いだけの道のりなのだが、暗闇が故に足を取らて何度かつまづいてしまった。
ガイドがライトを持っているのだが、光量の少ないライトでは僕の足元までは灯りが届かず、最終的にはiphoneのライトを点けて自分の足元を照らしながら歩く事にした。
平坦な道をしばらく歩き、緩やかな坂道を上っていく。勾配はどんどんとキツくなって行き、久しぶりの運動で息が上がり始める。
何度も腕時計を見ながら、残りどれだけ歩けば山頂まで着くのかを予想する。あと10分も歩けば着くかな?と思った頃、あたりが薄らと明るくなってきていた。
そして短いけれども急な登り坂をほんの少し息を切らしながら歩くと、無事に日の出前に山頂に到着する事が出来た。インディオの鼻を描き山頂への歓迎を表す看板を見て一安心。

その辺にある物で作ったような、手作り感あふれるベンチや屋根なんかの雰囲気も良かった。
水を一口飲んで一休み。
山頂の展望台からはアティトラン湖が一望出来た。まだ薄暗かったけれど、これは陽が高くなれば素晴らしい眺めが待っているに違いない、そう思える眺めだった。

ここは一つ良い写真でも撮りたいなと思って持って来ていた三脚を良さそうな場所にセッティングして、何枚かの写真を撮って画像を確認した。

もう太陽はアティトラン湖の周囲を囲む山の高さを越えている。けれども山の上にかかった雲を陽が遮っている。あの雲を越えてくれた、そう思いながら何度もカメラのシャッターを切る。
待ちくたびれるなんて事は無く太陽はドンドン高くなり、薄くかかった雲を越えた太陽は極めて短い時間だったがアティトラン湖一面を黄金色に染めた。

ほんの少しキツい思いをした後だったせいか、その景色が素晴らしかったせいなのか、清々しく気持ちの良いご来光の時間になった。

夢中で写真を撮っていたのだけれど、陽が高くなるにつれ逆光は厳しくなり、腕の無い僕の写真の技術ではどうにもならなくなっていった。湖と反対側にある山を眺めたり、煙草を吸ったりしながらゆっくりする事にした。


充分に朝のアティトラン湖の景色を楽しんだかな?と思った僕は、ベンチに腰かけていた高齢のガイドに年齢を聞いた。ガイドは65歳、本当におじいさんガイドだった。けれども足腰がしっかりしているのか登り慣れているせいか、さほど息も上げずに山頂まで案内してくれた。
彼はやかましくこの場所の説明し始めたり、行きや帰りも僕たちの行動を急かしたりする事は無かった。
他にツアー客が居なかった事もあるのだけれど、彼が持っていたクッキーやコーヒーをさらっと勧めてくれたりしてくれたので、僕たち二人の日本人はインディオの鼻でゆったりと良い時間を過ごすことが出来た。

1時間とちょっと山頂からのアティトラン湖の眺めを堪能し、僕たちは下山する事にした。
行きの道中は暗闇で山頂までの道の様子はわからなかったけれど、帰る頃には陽もすっかり高くなっていたのでその様子が良く見る事が出来た。

小笠原の父島の山中にある遊歩道を思い出すような木々に囲まれた静かな遊歩道は、人がすれ違う事が出来る程度の物だった。

途中一旦足を止めて、今まで居た山頂の展望台を振り返ってみた。

崖の上に有った展望台を見ながら、ずいぶんえらい所まで行っていたのだなと思うと同時に、旅人は「どこどこの最西端」やら「~大陸の最南端」だとか端っこ好きな人が多い事を思い出した。
帰りもチキンバスに乗る事になったのだが、待つこと1時間でようやくサン・ペドロ・ラ・ラグーナに戻るバスはやって来た。
バスを待っている間あまりにも暇だったので、山頂から撮った写真を確認していた。山頂展望台のベンチに座るガイドを写した写真を見ているとある事に気付いた。
おじいさんガイドはちょっとだけ俳優のダスティン・ホフマンに似ていたのだ。まぁ本当に少しだけなんだけれども。

早起きのせいか山登りの疲れなのか眠ってしまった友人を横目に、「ガイドのおじいさん、若かりし頃は男前だったんだろうなぁ。」なんて思いながら、尻や首を痛めそうになるほど跳ねるチキンバスに乗りサン・ペドロ・ラ・ラグーナに帰った。
宿に帰って時計を見るとまだ10時にもなっていなかった。
僕はまたいつものようにコーヒーを沸かし、それを飲みながらさっきまでいたインディオの鼻を眺めたり再び違った角度でアティトラン湖を眺めたりして一日を過ごした。
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