古都アンティグアの安宿で~アンティグア グアテマラ~
- ナシオ
- 2016年11月11日
- 読了時間: 5分
どれだけアティトラン湖を眺めた事だろうか。2週間と少しの日々、毎日その姿を眺めていた。
満月に照らされたアティトラン湖は、朝日に照らされたそれとはまた違って写真を撮る事にはまってしまった。

隣室の友人が去り寂しくなってしまったせいもあって、サン・ペドロ・ラ・ラグーナを離れる事にした。
サン・ペドロ最後の夜は部屋の外に吊るされたハンモックで眠る事にした。
朝晩いくらか冷えるので寝袋にすっぽり体を包んだ後、よっこらせとハンモックに乗り込んだ。快適なベッドで眠るのも良いのだが、どうしても外の空気に触れていたい気持ちが強くてハンモックで眠る事にしたのだ。
特に寒さを感じず静かに眠りに入り、陽の光を感じて目覚めた。
新鮮な外気に触れている事と陽の光を浴びて目覚めると言う事は想像以上に気持ちの良いものだった。
8時半に宿に迎えに来たトゥクトゥクに乗り、まだシャッターを開けていないツアー会社の前で降りてシャトルバスが来るのを待った。アンティグア行きのシャトルバスは煙草を一本吸い切る前にやって来た。
グアテマラの主だった観光地と言えば、アティトラン湖周辺の村々やシエラと呼ばれるケツァルテナンゴ、そしてアンティグア位しか知らなかった。首都のグアテマラシティは治安が非常に悪いと聞くし、わざわざ危険を冒してまで行くつもりも鼻っから無かった。まぁ情報が無い訳だ。
シエラをすっ飛ばしてメキシコからサン・ペドロ・ラ・ラグーナに来たので、せっかくだから古都アンティグアを見たい気持ちがあった。antiguaと言うスペイン語自体が「大昔の・古い」と言う意味を持ち、過去の大地震で壊滅的な状態になり首都移転を余儀なくされたにも関わらず、古き良き都は見捨てられる事無く今もグアテマラ人や多くの観光客を惹きつけると言う。
さらに言えば、メキシコで出会った友人がアンティグアに居ると言う話を聞いていた事もアンティグアに向かった理由の一つだった。
ヨーロピアンツーリストばかり、8割ほど座席の埋まったシャトルバスはアンティグアへ3時間ほどで到着した。
メキシコから何本ものバスを乗り継ぎサン・ペドロ・ラ・ラグーナに向かった事に比べると、えらく快適な旅路だった。
アンティグア到着後すぐに目星をつけていた宿へ歩き始めた。久しぶりに担ぐバックパックの重さを感じながら、そして街並みに軽く目をやりながら。
ものの5分程で目的の宿に着いた。
メルカド(市場)のすぐそばの目抜き通りに面した安宿だ。
ロシア人女性がオーナーの宿と聞いていたが、僕の応対にあたったのは陽気なラティーノだった。値段を聞く前に部屋に連れていかれ、まだ準備の出来ていないドミトリーの1ベッドを充てがわれた。
部屋にはドイツ人の若い女性バックパッカーの先客がいた。
ベッドのシーツ替えを待つ間、無料のコーヒーをもらって屋上に出て煙草を一服する事にした。 陽気なラティーノはやたらと僕に絡んできて、以前に宿泊していたと思われる日本人の名前や日本語の挨拶なんかを話してきた。
グアテマラ人だと思っていたが、話を聞いてみるとコスタリカ人だった。
ただの日本びいきのいい奴、そう思っていた。
屋上から眺めるボルカン・アグア、アグア火山は富士山に良く似た左右対称の日本人の心をくすぐるフォルムだ。

その日はちょっとした買い物をして街をぶらついたあと、宿でのんびり過ごして移動の疲れを癒す事にした。
夜は移動のご褒美にと言い訳して、缶ビールの500ミリサイズをを4本も飲んでしまった。グアテマラで良く見かけるフライドチキンをあてにしながら。
早起きと移動の疲れもあって早い時間に眠ってしまっていた。
翌朝テラスでコーヒーを飲んだり煙草を吸って目を覚ました後、シャワーを浴びるためタオルと石鹸を取りに部屋に戻った。
「オーナーの彼女から何か聞いていない?」
部屋に戻ると同室のドイツ人女性が顔を合わせて開口一番そういった。
いや、何も。と答えると、彼女はこう返してきた。
「貴方のイビキが酷くうるさくて眠れなかったの。もちろんあなたがコントロールできる問題でないのは分かっているけど。多分オーナーから部屋を変わるように言われると思うわ。」
深酒のせいもあってか相当なイビキをかいてしまっていたらしい。
一応、イビキの件を彼女に謝ったが釈然としない。
そういうのが嫌ならドミトリーに部屋を取るなよ、と思ってしまった。僕自身、そういう時の為に耳栓を持ち歩いていたりするのに。
昨日は陽気だったが何となく元気が無い様に感じたコスタリカ人のスタッフに移動するようにお願いされた。後から分かったのだけれど、彼はオーナー女性の「男」だった。
移動した先の部屋は2段ベッドが2台の狭苦しいドミトリーだったけれど、先客もおらずそれから先も滞在中ほとんど客が入って来ないのは良かった。結果1人部屋を手に入れたようなもんだった。
けれどもイビキの件が頭から離れず、薬局で点鼻薬を買ってみた。
さらに製造国によっては含有する成分の為、日本に持ち込めないインヘラーと言うメントールの様な物を鼻で嗅ぐスティックも買った。
1晩1人でドミトリーを使い気持ちよく過ごしたが、起きてすぐまた部屋の移動を言い渡された。
今度は大人数の団体が来るから、と言う事だった。
連日の部屋替えの要求で頭に来てしまった。
「そういう事はもっと早く言えよ、なぁ。」と陽気でお調子者のコスタリカ人へ向けて語気を強めて言ってしまったではないか。
初日の部屋に戻ってドイツ人の女の子と顔を合わし、一晩だけまた一緒の部屋になる事を伝えた。
「今夜はロビーのソファーで眠るわ。」
可愛い顔してこっちの胸に突き刺さるような言葉を放った。
45ケツァール、日本円で630円ほどの安さだったので最終的に13泊したが、この女とはこの日以来一言も口を利かなかった。と言うか、たまに彼女とキッチンで顔を合わした時こちらが挨拶しても帰ってこないからそうするしかなかった。
富士山そっくりの山を一望できるテラスと無料のコーヒーが無ければもっと早くにこの宿を出ていたかも知れないけれど、僕は居心地が良いんだか悪いんだか分からない宿に長居した。

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