飲んだくれて死者の日を待つ~アンティグア・グアテマラ~
- ナシオ
- 2016年11月17日
- 読了時間: 4分

ある朝、いつものようにキッチンにある無料のコーヒーを飲もうと1階のキッチンに行こうとした時だった。
「貴方、彼にお金を払ったりしていない?」
と、女性オーナーから不意に声を掛けられた。
払っていない、僕がそう答えると彼女はこう言った。
「宿に払うお金は私にお願い。彼に渡すと全部お酒に使ってしまうから。お願いね。」
彼、とは女性オーナーの男だ。そう、陽気なコスタリカ人の事である。
不意な質問に驚いたけれど、振り返ってみるとなるほどそういう事か、と一人納得してしまった。
僕が到着した日の朝の彼のテンションの高さも酒、金を一晩だけ貸してくれないか?と言う彼の言葉も酒の為だったのか。
分かったよ、と僕は答えを返してテラスへの階段を登った。
11月を目前にしたアンティグアは、夜は少し冷えるのだが昼間は過ごしやすかった。晴れの日にテラスで日差しをもろに受けていると、むしろ暑いくらいの日もあった。
テラスにある日よけの付いたブランコの椅子に座ってコーヒーを飲みながら今後の予定を考えた。
「いつこの街を離れるかな?」
この街に滞在する友人と酒を飲む為にアンティグアに来た所も否めないのだが、その後を考えていなかった。
11月1日は、死者の日と言って日本のお盆にあたるようなお祭りがある。メキシコの死者の日の祭りは有名で、それを見るためにメキシコに戻ろうか?と言う気持ちもあった。
けれども死者の日まで1週間を切った所だったのでそれも半ば諦めていた。
メキシコの隣の国だから、グアテマラにも死者の日のお祭りがあるに違いないと思ってネットで調べたり人々から話を聞く事にした。
ちょうどテラスに宿の掃除や洗濯をしに来るおばさんがいたので、死者の日について話を聞いてみた。
「スンパンゴの村で大きなお祭りがあるわよ。凧が沢山揚がるお祭り。サカテぺケスと言う村でも同じようなお祭りがあるけれど、スンパンゴのお祭りの方が大きいんじゃないかな?」
凧揚げの祭り!なんだか楽しそうで一気に興味を持っていかれた。
おばさんにスンパンゴへの行き方を聞いたあと、ネットで調べるとカラフルで大きな凧が無数に並んだ写真が出て来た。
これは一見の価値があるに違いないと踏んで、アンティグアを離れるのは死者の日以降と言うざっくりと予定を決めた。
アンティグアの街は意外にも小さく、十字架の丘と呼ばれる場所から富士山そっくりのアグア火山をバックに街並みを一望する事が出来る。


過去に大地震で多くの建物が壊滅的なダメージを受けたにも関わらず、見捨てられる事無く未だに愛される古都アンティグア。

壊れかけた建物とその前で商いをするインディヘナの人々。

グアテマラはメキシコの南部オアハカ州やチアパス州に似て、土産物や女性の衣装も色鮮やかだ。

古ぼけた街並みが通りに広げられた土産物でぐっと明るくなる。
治安も比較的良いようで、週末に友人と酒を飲んで日付が変わる頃に宿へ帰っても危険は感じなかった。 多少気は使ったけれど、小さな三脚を使って夜景をカメラに収めたりする事も問題は無かった。
良く友人と待ち合わせをしたメルセー教会も夜に見せる姿の方が美しく感じた。

旅先で誰かと待ち合わせをするなんて事が無いから、その少ない機会に出会えた事で夜のメルセー教会が美しく見えたのかもしれない。
公衆浴場ならぬ「公衆洗濯場」も夜に訪れると、水面に反射した建物や灯りの具合が素晴らしく、いい絵になった。

古い石畳の道に足を良く取られたけれど、ぶらっと散歩するにはちょうど良い大きさの街だった。

友人達と連れ立ってサルサバーなる店に行って、初めてサルサを踊ったりもした。
ステップに気を取られ、足元ばかりを見てしまって踊ってるんだか地団駄踏んでるのか分からない自分の姿があった。それでも十分楽しく、旅の道中でサルサのレッスンでも受けてみようか?などと思ったりもした。
酒を飲みに入る店はどこも洒落ているのだけども、それぞれに個性があって酒場巡りも楽しかった。
店の入り口の狭さからは想像できない小奇麗な中庭が広がっている店や、生バンドの演奏があったりする店があったり。
23時になるとほとんどの店は閉めてしまうのだが、顔馴染になった店は扉が閉まっていてもノックをして顔を確認された後に中へ入れてくれた。恰幅と気の良い店のおばさんが辺りを伺い、そこに警察の姿が無ければの話なのだけど。どこに行ってもお巡りは嫌われるもんだ。
この店のせいで毎度のごとく日付が変わるまで酒を飲んでいた。
飲んだくれの日々を過ごしながらも、僕は日を重ねる毎にアンティグアの街が好きになって行った。
Comments